友人Sは酒を呑むと、気持ちが自由で緩やかになるタイプのようだった。
とにかく、彼の本音は、即物的な風俗に行きたいが。
私にいつも説得されて、気が付くと、
私のペースでキャバクラに向かっていた。
記憶は、現在では、やや曖昧になっているが。
恐らく、友人Sと呑むようになった少し後から、
私が通い始めたフィリピンパブの彼女のいる店「インパクト(仮称)」の魅力を説き、
彼を誘ったのだと思う。
彼との飲み会は、週に、1-2度ぐらいになった。約束は、メールでやり取りした。
会うと、居酒屋で、ある程度、出来上がるまで飲む。
そして、2時間ぐらいを、その居酒屋で、業界の話をする。
お互いに、映像業界のど真ん中にいたわけではないが、いまだその周辺に、
しぶとく食らいついているあたりで、業界の話は盛り上がった。
私たち業界のはしくれとして、
映画の話もしたりする。すると、彼からは、あの映画の、部分的なオプチカル処理として、
コンピュータグラフィックス処理を行ったとか、近いうちに、また別の作品でも、
担当することになっているなどという話を聞かされた。
その話を聞くことで、
業界のはしくどころか、さらに下向きな私よりずっと、
友人Sの仕事の方が、はるかに上向いているなと感じた。
私が映像の世界から、日々、取り残されていくのに対して、
彼の会社や役割は、業界の中心に深く関わり、ポジションを確実にしつつあった。
当然ながら、彼の収入もそれなりに良かった。月収で、すでに3桁はいっているようだった。
私たちは、自然と、一軒目の居酒屋は、私が支払い、
二軒目が、彼が負担するという、暗黙の関係になっていた。
そんなある時、
私の行きつけのフィリピン・パブ「インパクト(仮称)」を紹介したのだ。
彼の内心までは、分からないが。
率直に言えば、やはり即物的な風俗へ行きたかったのだろうと思う。
毎回のように、「マッチャン、○○(風俗)」へ、行こうと、
まずは一度は、私を誘い、その同意を求めるが。
それを、私がさり気なく交わす。
結局、私に次の主導権を握られて、何となく、、
「ま、いいか。今日は…」を繰り返しつつ、私に付き合ったのだと思っている。
店に行くと、ちいママが
私たちを見て、やはり大きな声を張り上げ「イラッサイマセー!」という。
ちいママは、当然のように、彼女に顔で合図する。
「マッチャン、キタヨ!」という表情だ。
友人には、
それなりに、可愛いフィリピーナを付ける。
ただ彼の場合は、顔でなく、胸が大きいかどうかが優先される。
私は、ちいママに、それをさりげなく告げた。
誤解を避ける意味で言っておくが、そうは言っても、
フィリピン・パブで、おかしなことができるわけではない。
あくまでも、楽しいおしゃべりが主体。カラオケを楽しむだけだ。
彼もそれは承知している。
この店はローカルながら、フィリピーナの選りすぐりで、
それなりに美形揃いだ。
ちいママには、私からそんな情報を受けて、
女性を選択する。
彼は、案外ノリがよく。カラオケタイムには、積極的に、
歌っていた。特に、サザンオールスターズの曲がメインで。
私は、とりわけ彼の歌う「黄昏サマーホリデー」が好きだった。
私自身も、そこそこ興が乗れば、クールファイブの曲を歌ってみせた。
私たちの習慣化の始まりとなった。