その店は、とある私鉄沿線のローカル駅の傍にあった。
ここでは、仮称で呼ばせていただく。「INPACT」という名の店。
駅から1-2分の3階ビルの最上階にあった。
鉄製の幅の広い外階段を「くの字」に上がってそこはあった。
階段の踊り場から、このローカルの町が一望できるのではというように、
他に高い建物は、少ない。下町の風情が、どこか懐かしくもあり、侘しくもあった。
木製のガラス戸を開くと、
「イラッシャイマセ」とちいママが、迎える。
その声に呼応して、6-7名の客待ちのフィリピーナたちも、
それぞれに、ノー天気な声で「イラッサイマーセ」の声が私に向けられる。
恐らく、入店してきた客を、この場合は、私のことだが、
私どんな客かあれこれ口々に評価しているのかもしれない。
ある意味での品定めでもある。
固まって寄り添い合うフィリピーナたちが、タガログ語で、
何やらヒソヒソ話している。大きな口で笑っている者もいる。
この瞬間は、明るく見える彼女たちも、多少の不安と、
ちいママから仕事の指名が掛かることを期待している瞬間なのだ。
本心では望まなくても、客とのチャンスをもらわなければ、
仕事を続けることができない。だから、ある意味必死なのだ。
ちいママが、大柄の女性に声を掛けると、
「良し、やったあ!」というような表情が見られた。
スーッと立ち上がり、店の中に入ってきた私の傍で、
軽く笑顔を見せてこちらを見る。
少しばかり、ちいママの選に漏れた他の女性たちに対して、
照れくさそうにして店のキッチンの中に消えた。
おしぼりや、飲み物、そしてグラスなどのセットを持ってくるためだ。
私は、ちいママから指示されて、適当な席に着く。
この日の店の印象は、客が少ないなという感じだった。
そうなると、すぐには帰りずらい。
私以外に、先客が、3組ほどいた。
店の中央には、ドーンと。ほぼ正四角形で、高さにして30cmほどのステージが、
店のスペースの3分の2ほどを占めていた。このステージで、カラオケや彼女たちの、
にわか仕込みのイベントのショータイムなどが行われるため、
大きめの舞台ステージになっている。
ほどなくして、おしぼりを持って、彼女が現れた。
ヒールサンダルを履いているので170cm以上はあった。
私は、彼女を指名したわけでなかった。
ちいママの裁量で、この客には、このタイプがいいというのを
直観で決めている。それで彼女がやってきたのだ。
フィリピンパブでは、どこでもほぼ共通だが、
彼女たちは、手を差し出して、初めての客と握手をする。
この感覚が、どこか国際感覚を感じる瞬間でもある。
その際に、彼女らは自分の名を名乗る。
「〇〇デス」と名乗り、店が用意した名刺も渡してきた。
名刺には、ハートマークが、すでに2-3個、付いている。
「名前ハ、ナンデスカ?」と聞かれ、適当に応えようかと思ったが。
「マッチャン」と返事した。
この出会いが、最初の出会いであり、それが今なお続く出会いになるとは、
彼女も考えなかっただろう。