夢見心地☆「待つ」という試練 ★20#0363

フィリピン-ピリピン

「デルス・ウザーラ」という映画をご存知だろうか。
黒澤明監督の晩年の作品で、私は、断言して言う。
黒澤映画の最高峰だと。

旧ソ連映画で、山で生きるデルス・ウザーラという実在の人物を通して、自然の厳しさ、過酷さ、森の豊かさなどをテーマにした映画だ。シベリアが舞台だ。

映画は、シベリアの奥地を測量調査にやってきた軍人と山の道案内をするデルスとの出会いと交流を通して、デルスの生きざまが描かれている。
それまでの黒澤映画にはない極めて淡々とした映画である。

あるのは、ただただ、懇切丁寧に四季を描いて見せてくれる。
特に、一瞬にして嵐と化すことのある厳寒の冬のシーンは、自然の猛威に圧倒される迫力だ。
何にせよ。撮影の世界の現場を知っている私からすると、この撮影は、地獄のような厳しくつらい中で行われたのだろうことがよくわかる。底辺の現場スタッフの辛さは想像以上だろう。

妥協を許さないと言われる黒澤監督だが、本人も含め撮影スタッフの悲鳴とギリギリの状態が容易に想像できる非常に危険が伴ったと思われるシーンも多数あった。

この映画の見どころは、
もちろん自然の厳しさと豊かさとその偉大なる力だ。もう一度言う、自然の偉大なる力だ!

そして、自然の中に、人間の生々しいドラマが対比的に盛り込まれている。
その一つが、
弟に妻を寝取られ、人間不信に陥ったことから山に隠(こも)った中国人のさり気ないエピソードだ。 

いまでもまだ分からないが、直感的思うのは、自然の過酷さと一見無関係な人間の愛憎ドラマが、深い部分でリンクしているらしいことだ。そこに私は、注目している。
どう受容し解釈していいか、いまだ分からない。ただ哲学する映画だということだけは分かる。

私は、数年の期間に、この映画を複数回、劇場で観た。

その3回目のときだった。
それまで見るたびに感動はしていたものの、それまでに気づきを得なかったシーンがあった。

恐らく、観たときの心境というものが、大きく作用していたのかもしれない。

それは、
シベリアの厳寒の冬のシーンにあった。
生きものたちは、どこかへ消え、
文字通り、空気が凍り、山や森が雪に包まれている。川の表面は、すっかり凍っている。
どれほど寒いかが、見事なくらい映像から伝わってくる。

その寒さは、春を忘れるほど長く、
映像がそれを語る。その底知れない寒さは、
さらに長く、厳しいものになるのだろう…。
この場所においては、
この世には、もう永遠に冬しか存在しないのだと打ちのめさせられる思いがする。

なのに…。その過酷な厳寒においても、
季節は巡る。

映像は、木々の一瞬の木漏れ日を捉える。
僅かな光とその気の遠くなるほど感じることが難しい暖かさ。

その緩やかに注ぐ光の力強さを知ったとき、
私は、まさに映画館の椅子から躍り上がったのだ。身震いがした。
幸い、映画館は、空席が目立っていた。川崎チネチッタの映画館だった。

「あー、これだ!」

黒澤監督が描きたかったのは、この瞬間なのだ。ここに、
過酷な自然の氷解、あるいは溶解と弟に妻を寝取られ、人間不信に陥った中国人の心の変化が、
そこにリンクとして描きだされているのだという理解のひらめき。

無粋な蛇足を言うならば、この中国人は、デルスと出会い諭され、人里離れた山を下りることを決心する。

この厳寒の山奥こそは、まさしく人間不信に陥った彼の心の世界でもあるのだ。
映画は、そこをきちんと描いてみせる。

黒澤監督は、音の使い方が非常に上手いと言われている。
映像から、「カチッ、カチッ、カチンッ!」と静かに、
微かに氷の溶解に伴って鳴る音を聴かせる。

静かな時の流れの中で、
凍っていた川が、いまこの瞬間、氷解する様子を見せているのだ。

「あー、これだ!そうなんだ。」と思った瞬間だ。

私は、このシーンをそれまでの人生の様々な場面と重ねていたのだ。

どんな難しい問題も、逆境さえも、
このシベリアの山の中で凍る川のように、いづれは氷解するときがくるのだと。
私は、その時、涙があふれ出た。
なぜか緊張していたものが弛緩していくのを感じた。

ロバート・シュラーは、自身の著書「シュラー博士の願いをかなえる一番いい方法」(桑名一央/藤原一郎[共訳] 知的いきかた文庫)で
「どのような企てでも、必ず問題が起き、それに圧倒されるときが来ます」

と述べ、そうした場合には、
自然の力にすべてが氷解されることを委ねてみる重要さを説いている。

シベリアの山や森は、気の遠くなるほど、
何度も厳寒の冬の試練を当たり前のように受け入れ耐えてきた。
その知恵は、「待つ」ことの意義だった。
その後に来る、豊かさと実りを知っているからだ。

さらに、シュラー博士は、

  「ほんとうに成功する人は、
   待つこと以外に何もできないときがあることを知っています。」
    (前出「シュラー博士の願いをかなえる一番いい方法」より引用)

と述べ、
どんな問題にも、絶対あきらめない。忍耐強く「待つ」ことも大切であることを
説いている。



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