フィリピン・パブ☆半年後… #29

フィリピン・パブ

彼女がフィリピンに帰っておよそ半年後のある日、
彼女の来日が決まったという。
何と…、驚いた。

良かったという思いもある一方で、
また金銭的に追い詰められることになると思うと喜んでばかりいられない。
驚いたの思いは、実は、困ったに近かった。

そしてこの来日には、私なりに、やはり彼女の執念を感じた。
なぜなら、
日本で勤めたい店については、彼女らの希望通りには、
そう簡単には、なかなかいかないらしい。
実現性が低いらしいという。

ニュアンスでしか分からないが、
業界内部の彼女たちの配置には調整めいたものがあるらしいからだ。
あくまでも推測だが。
それを、彼女は、なんとか自身の希望で、「インパクト」に決めたあたりが。
凄いと思った。

前述に彼女の不思議な力に驚いたというのは、この部分も含めてだ。

もちろん、自嘲を込めて言うのだが。これはある意味、
私のおかげだとも自信をもって言える。

として、

彼女の来日には、店側が再び、
彼女を「インパクト」に呼ぶことには、一定のメリットがあるということだろう。
そのメリットは、言うまでもなく、売上げが見込める「カモな私」のPUB通いだ。
ともかく、大宮や川口などでなくて良かった。

ただ、ただ、そう思った。
「後のことは、後で考えよう。ケセラセラだ!」

私は、さっそくシショウを、当然、道連れにしようと思っていた。

ある日。
いよいよ彼女が店に現れた当日、私は、一人で店にやってきた。
わずか半年なのに、少しお腹まわりが太目になっている。

レディに対して、失礼だが、久しぶりの挨拶で、それを指摘した。
決して、彼女は、デブではないし、ぽっちゃりでもないが、
少し、お腹周り、下腹に、肉が付いたように感じた。

インパクトでは、2度目のお勤めだが。
彼女たちの生活リズムが私には、わかっていたので。
その意味で、食事時間が店側のルールで制限されているし。
出勤前は、店が深夜で終わるまで食事ができずにいる。
その非常に不規則なリズムで、さらに太目になるのではと、
危惧する。

かつて前回の彼女の最初のシーズンの来日したとき、
たまたまその日、私は、店に来なかった日だが。

空腹でいることを店側から強いられて、
食事の制限をしている関係上、彼女が胃痛で倒れ、救急車を呼んだという
話を聞いた。ちいママから聞いたのだ。

病院で点滴を打って、翌日には、
店に出たそうだが。私がその日来店し、

ちいママが、
「キノウ、キュウキュウシャ ガ キテ タイヘンダッタ」と、
私に説明したのだ。いま目の前に、見た目元気そうな彼女がいるので。
その時は、話がイマイチ、リアリティに乏しく感じたことがあった。

そうした体調の面を含めて、いろいろ心配だったのだ。

ともかく、その日は、一時間の制限で店を引きあげた。

店の扉をあけて、3階の階段の開放的な踊場に立って、
東の方を見た。

遠方を見ると、高層のビル群の窓の灯が見える。この町の夜は静かだ。
ギラギラしたネオンなどほとんどない。

駅周辺にパチンコ屋があり、そのネオンも、この時間では、消えている。
眼下のスーパーのアンバーな光だけが、店の名前を照らしているのが見える。

北杜夫の作品に「幽霊」という作品がある。
私が、これを読んだのは、20代前半頃だったと思うが。

その作品の内容は、ほとんど記憶がないが、冒頭のシーン1ページ目に書かれていた
葉の上で、無心に葉を食い尽くす青虫の話がある。

それが、後の私には、とても印象的で、しばしばよく思い出す。
その青虫が、葉を喰い尽くす中で、
なぜか突然にその幼虫が葉を食い尽くすのを辞め、
ふと不安そうに頭をもたげ、あたりを見回すという描写がある。

原文は素晴らしい表現なので、そちらを読んでいただきたいが。
いま踊り場に立ち、この町を見渡すとき、
そのシーンが、いまの自分にダブル思いがした。
「フーッ」と小さくため息をついて、私は、自宅に帰っていった。

予想はしていたものの、翌日から、再び、
彼女の、「キテ、キテ」コールが始まった。
以前より、容赦がなくなった。

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